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大阪ガス株式会社(大阪府大阪市)

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大阪ガス株式会社
(大阪府大阪市)

【写真】守屋さん、濱田さん 大阪ガスは1897年(明治30年)設立。都市ガスの製造・供給・販売やガス機器販売などの国内エネルギー事業のほか、海外エネルギー事業、ライフ&ビジネスソリューション事業を行っている。
従業員数は、連結対象のグループ全体を含めて21,017名(2023年3月現在)。
今回は、人事部安全健康推進チームDaigasグループ健康開発センター マネジャーの守屋雅啓さんと統括産業医の濱田千雅さんからお話を伺った。

従業員の健康に向けた取組みを従業員にもわかりやすく発信するため、“ヘルシー7”を打ち出し、キャラクターやロゴを作成したり、イベントを実施したりしている

まず、メンタルヘルス対策を含む健康経営の取組みの全体像についてお話を伺った。

守屋さん
「当社では昔から安全や健康への取組みを積極的に行ってきました。創業70周年となった1976年(昭和51年)に掲げられた2大長期方針のうちの1つに“健康づくりのための施策”が挙げられており、社長講和の中には『“心身ともに活気にみちあふれた”積極的な健康こそが幸福にとって絶対欠くことができない条件』という言葉が入っていました。こうした取組状況を認めていただき、2018年から5年連続で健康経営優良法人のホワイト500に認定され、今回(2023年)初めて健康経営銘柄に選定されました。」

守屋さん
「安全健康活動は、Daigasグループ全体で実施しています。まず、人事部にて全体の安全健康基本計画を作成します。その上で、グループ各社において、自社の安全健康状況を踏まえた安全健康活動計画を作成し、活動を実施するという流れで行っています。計画は会社の中期計画に合わせて3年ごとに打ち出しています。ただ、その文言だけでは具体的な内容が伝わりづらいので、“行動指針 ヘルシー7(セブン)”というものを打ち出して、7つの指標を、随時モニタリングしていくことにしています。7つの指標は、“体重”、“食事”、“運動”、“飲酒”、“禁煙”、“睡眠”、“ストレス”です。(【図1】参照)」

守屋さん
「ヘルシー7を身近なものとして感じてもらえるように、若手スタッフが率先してGasの炎をモチーフとしたキャラクターやロゴを作成してくれました(【図2】参照)。また、2021年にはオリンピックに合わせて“ヘルシー7オリンピック”というイベントを実施しました。“ヘルシー7オリンピック”では、7つの指標のうちから自分が取り組むものを自ら決めて、それが達成できたらスタンプがもらえるといった形式にし、1400名以上の従業員が参加しました。」


【図1】Daigasグループ健康経営宣言・行動指針ヘルシー7


【図2】ヘルシー7 キャラクター&ロゴ

守屋さん
「また、“みんなで歩活”というウォーキングキャンペーンを毎年2回春と秋に実施しています。2018年春には323名だった参加者が、2023年春には4,672名となり、年々大規模なイベントになってきています。原則として自主参加としていますが、各組織の総務部門が参加をとりまとめていますので、声をかけ参加を促してくれています。」

守屋さん
「その他、健康診断の問診表の結果を生かして、従業員の状況に応じた取組みを行っています。たとえば、朝食をとっていない従業員が特に若手に多いことを踏まえて、朝食に関するオンラインセミナーを開催したり、朝食習慣チェックを実施したりしました。また、睡眠不足な従業員や、より良く眠りたいというニーズのある従業員も多いので、2023年度は睡眠キャンペーンと題してオンラインセミナーや睡眠チェックなどを企画しています。」

各組織を担当する医療職を明確にし、各組織内でも衛生担当を行う者を決め、両者の連携を密に行うことで、組織全体の産業保健体制が機能している

次に、社内の産業保健体制とグループ会社との連携、健康診断の実施体制についてお話を伺った。

守屋さん
「当センターには、産業医3名と、看護師・保健師・臨床検査技師合わせて22名が在籍しています。そのほかに、パートタイマーの医療職などを含むと、全体で40名以上の医療職がいます。濱田統括産業医がその統括をしています。」

守屋さん
「また、全組織・全関係会社に、健康や健康経営を担っている“衛生担当”がいます。当社では“衛担(えいたん)”と呼んでいます。年2回、衛担向けに研修会を行っており、私たちが推進しようとしている施策の内容について説明したり、旬なトピックスについて講演をしたり、好事例を紹介したりしています。コロナ前は、集合形式で実施していたのですが、今はオンラインで実施しています。また、衛担が対応に悩むことがあれば、組織担当の医療職にいつでも相談できる体制ができています。」

濱田さん
「医療職は会社や地区ごとに組織担当制としています。従業員50人未満で産業医の選任義務がない会社もあるのですが、そうした会社も含めて当センターでは、担当医療職を決めています。産業医は毎日行われている健康診断の診察やセンターでの面談に加え、定期的に職場巡視時に担当組織を訪問しますので上記の“衛担”と情報交換をしたり、保健師も必要に応じて訪問し、障害者雇用で働いている従業員のサポートの面談をしたりなど様々な支援を行っています。」 

守屋さん
「衛担は長年担ってくれているベテラン社員が多いので、その人たちが退職した後の体制については今後の課題として考え始めているところです。外部機関と契約して保健師を派遣してもらうサービスを利用するといったことも選択肢の一つだとは思うのですが、日頃から一緒にいることで、“あの人が言うから聞こう”ということがやっぱりあるんですよね。そのような訴求力を維持し高めていくためにも、これまでどおり各組織で衛担が機能する体制づくりを先んじて行っていきたいと考えています。」

濱田さん
「弊社は基本的に、毎日社内健診を実施しています。健康診断の受診率は、近年ずっと100%を維持しています。そして、診断結果をもとに、医療が必要な従業員は2020年度45.5%から2022年度43.0%と減少しています。その背景の一つに、血液検査の結果も含め、健康診断の結果は受診日当日にわかり、診察、結果説明、保健指導を当日に実施・完結する体制を構築していることがあると思います。血液検査、心電図、腹部エコーなどの生活習慣病を意識した項目やこうしたシステムを駆使して、営業職を含めて必ず年一回従業員と医師が対面で結果を踏まえたお話しすることができますし、保健師による保健指導・特定保健指導のスムーズな実施につなげることができています。また、精密検査が必要な方には、紹介状を出して、医療機関の予約まで、当日中にセンターでサポートしています。こうした手厚いフォローの結果、精密検査の受診率は95%以上と非常に高くなっています。」

高ストレス者に対しては医師による面接指導だけでなく、組織担当の医療職からの個別フォローのほか、健康診断の面談時にフォローをするなど、手厚い支援を行っている

最後に、職場におけるメンタルヘルス対策の具体的な取組みについてお話を伺った。

濱田さん
「ストレスチェックについては、2007年からストレスチェックの項目の一部である“ストレス反応”と“ストレス要因”について健康診断と併せて調査を実施しています。2015年にストレスチェック制度が法定化されてからは、別途、法令に基づくストレスチェックも実施するようになりましたので、今は年に2回ストレスに関する調査を実施しているような感じです。健康診断と併せて一部実施している方の結果は、実施当日、健康診断結果をお伝えするときには出ていますので、心配な結果であればその時にお話を伺うことができます。また、年2回分の結果を経年で見ることができますのでそれを踏まえた面談を実施することもできます。必要があれば、組織担当の保健師に保健指導等の中で話を聞いてもらうこともあります。」

濱田さん
「ストレスチェック制度における高ストレス者は7%程度です。高ストレス者で申出があった方への面接指導の実施はもちろんですが、申出がなかった方に対しても組織担当の医療職が個別に電話やメールをしてフォローを行っていますし、健康診断実施時には必ず会えますので、その時にもフォローしています。健康診断の結果をお伝えするときの雑談の中で、会社や組織の状況を本音で話してくださる方が多いので、実態をつかみやすく、早め早めの対応につなげやすい環境ができています。」

濱田さん
「ストレスチェック結果を活用した職場環境改善については、まず人事担当者が各組織にフィードバックを行い、各組織から各部署にデータが共有されます。また、私たち医療職で高ストレス部署をピックアップしていますので、該当部署に対して“何かお手伝いできませんか”というスタンスでのアプローチもしています。私たちが立てている仮説と、現場では実際に何に困っているのか、というところを意見交換する場を設けて、一緒に対策を考える形にしています。意見交換は、各部署からは人事総務の部長やマネジャー等、こちら側は組織担当の産業医と医療職、集団分析担当医療職が参加しています。職場環境改善の取組内容が決まったら、実施は現場に任せています。」

守屋さん
「こうした職場環境改善活動を約4年やってきて、各組織もデータの見方を理解してきて、勘所を分かってきていますので、今年はこちらから高ストレス部署にアプローチするという形ではなく、当センターの支援を受けたい部署があれば支援をするという投げかけをしています。希望は今のところないのですが、わざわざ意見交換の場を設けなくても各組織でうまく対応できているのではないかと期待しています。」

濱田さん
「また、健康開発センターには、外部医療機関としての機能もあります。外部医療機関として精神科の医師に週2回3時間来てもらっています。全く知らない外部の精神科への受診に抵抗のある方でも、社内にある外部医療機関であれば相談してみようということもありますので、受診を勧奨しやすい体制ができています。あくまで外部医療機関として扱いますので、投薬も行っていただいていますし、医療情報も分けて管理しています。また、上司が心配な部下に対してどのように対応したらいいかということも相談に乗ってくれますので、より専門的な助言を得ることができる体制となっています。」

守屋さん
「社内で精神科の医師に相談する場合は、健康開発センターの受付で会社の医療職と顔を合わせる必要があるので、抵抗のある人が多いのではないかと当初思っていたのですが、実際には、社内だから気軽に受けられる、来やすいということで、利用している従業員が意外と多いです。」

濱田さん
「状態がある程度まで落ち着いたら、自宅の近くの専門医療機関につなげることもあります。いきなり近所の専門医療機関に受診するのは不安があるけれど、すでにお話しできている精神科医師の紹介だと安心して受診できるということもあるようです。」

濱田さん
「また、メンタルヘルス研修も長年様々な階層で実施しています。新入社員向けの研修、新人指導員向けの研修、新任管理監督者向けの研修に加えて、すでに管理職になっている方向けに新しい情報を提供するための研修も実施しています。そして、大阪商工会議所の“メンタルヘルスマネジメント検定Ⅱ種(ラインケアコース)”は管理職全員が受検することにしています。」

守屋さん
「メンタルヘルス不調による休業率は1%前後で推移しています。全国平均と比べて特別低いということではないかもしれませんが、できるだけ早期に介入できているので、休業期間が長引かない傾向はあると思います。」

守屋さん
「私たちは約2万人の従業員のサポートをしていますが、それができているのは多くの従業員が京阪神エリアに固まっているからではないかと考えています。私たちも職場に訪問しやすいですし、皆も健康診断を受けに来ることのできる、目が届きやすい距離感で、年1回は必ず会えるということは大きな特徴ではないかと思います。これまで携わってきた人たちや、今携わっている人たちが丁寧に関わってくれているので、そうした積み重ねで今の組織ができているのだと思います。」

【ポイント】

  • ①従業員の健康に向けた取組みを従業員にもわかりやすく発信するため、“ヘルシー7”を打ち出し、キャラクターやロゴを作成したり、イベントを実施したりしている。
  • ②各組織を担当する医療職を明確にし、各組織内でも衛生担当を行う者を決め、両者の連携を密に行うことで、組織全体の産業保健体制が機能している。
  • ③高ストレス者に対しては医師による面接指導だけでなく、組織担当の医療職からの個別フォローのほか、健康診断の面談時にフォローをするなど、手厚い支援を行っている。

【取材協力】大阪ガス株式会社
(2023年12月掲載)